次男を合宿先である嬬恋に送って帰宅すると、既に午後2時を回っていた。買い物を済ませスーパーを出ると青空が広がっている。山に行くには遅すぎたが、このまま家に引きこもってはもったいない。カメラを持って、散歩に出かけた。
強い日差しを避けるように、萩原朔太郎が詠んだ「廣瀬川」沿いを歩く。
「廣瀬川」
廣瀬川白く流れたり
時さればみな幻想は消えゆかん。
われの生涯(らいふ)を釣らんとして
過去の日川邊に糸をたれしが
ああかの幸福は遠きにすぎさり
ちいさき魚は眼にもとまらず。
大学の写真部で貸し出されたNikonのFM2が嬉しくて、今日のようにカメラを片手に気の向くまま歩いては写真を撮っていた。
フィルムが主流だった学生時代は時間はあってもお金がなくて、1枚1枚画角や露出を一生懸命考えてシャッターを切っていた。夏休みなどは中古の軽自動車に布団とカセットコンロを積んで、車中泊や友人の実家、高校時代の友人の下宿先に泊めてもらいながら北陸や東北方面を放浪していた。
だからだろう…今でもひとりで行動することに何のためらいもない。
人気度ランキングでは常に低い群馬だが、ゆったりとしていて住みやすい処だ。城下町だった県庁周辺は古い家屋も残っていて、散歩をしていても飽きることがない。
前橋公園を抜け、利根川へ。
山に行くには恨めしい台風も、過ぎた後の空は澄み、雲は表情が豊かだ。
学生時代から20年以上飼っていた猫を亡くして少し距離をおいていたが、やはり散歩の途中で猫に出会うとテンションが上がる。
君は美人だね。
実は映画やドラマの撮影場所になることも多い前橋。「そして父になる」の電気屋さん、「クラーマーズハイ」のカレー屋さん…なかなか味わい深い街だ。