朝4時に起床した。朝食の代わりに頼んであったお弁当を受け取り、まずは荷造り。
日の出を見たら、出発する予定だからだ。
空はすでに白みはじめている。気ばかり焦って、もどかしくてたまらない。
写真を撮りはじめ、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
珈琲を淹れる。
そのぬくもりを手で感じながら、徐々に雲海を染める朝日を眺めていた。
仲良くなった同じ部屋の女性たちも、小屋から出てきた。
みんなの顔もオレンジ色に染まっていく。
これから始まるそれぞれの1日に、期待で胸を膨らませているに違いない。
愛知から来た女性ふたりは、学生時代ワンゲル部だったそうだ。年を経て、また違う山の楽しみ方を身に着けた彼女たちには素敵な余裕があった。今朝もゆっくり朝の時間を小屋で過ごしてから出発するという。
その余裕が、なんかカッコいい。
靴紐を締めなおして、小屋を出発した。槍ヶ岳も赤く染まっている。
いい朝だ。
チングルマ(稚児車)の綿毛の朝露が、いっせいにキラキラ輝き始める。
こんな光景が楽しめるのは、泊りの山行ならでは!
ピストンだから昨日歩いた道のはずだけれど、新鮮に感じる。
雲海に浮かぶ穂高連峰。
同じ小屋に泊まった蝶ヶ岳まで縦走する女性を追いかけていたこともあって、かなり速いペースで常念乗越まで戻ってきた。
彼女は大阪からソロで来ていたが、前日に中房温泉側から入山し大天井まで歩き、想像以上のアップダウンに少し不安になってしまったらしい。そこで、常念岳を一緒に登りましょうという話になった。歩くのが遅いからと、私より20分ほど早く小屋を出発したが最後まで追いつくことはなかった。
常念小屋の前で、彼女と再会した。バッチや手拭いを買ったと言う笑顔に、もう不安な表情はなかった。
大天荘でもらったちらし寿司のお弁当が、美味しい。エネルギーを蓄えて、いざ常念の頂へ。
3分の1ほど彼女と話しながら登った後、「お先に、どうぞ。」という言葉に甘えて「それでは、後ほど山頂で。」と、先を行かせてもらった。
山頂から、彼女がこれから歩いて行く蝶ヶ岳への縦走路が続いている。
私もいつか、この道を歩いてみたいな。
祠にお参りし、珈琲を淹れた。
昨日も会った山岳警備隊の人達も休憩していた。パトロールしながら、心配のある人はいないか登山者たちの様子を確認しているようだ。頭の下がる思いと、自分はお世話になることのないよう気を引き締めようと思った。
来た道を戻り始めたところで、登ってきた彼女と会えた。
「また、いつか、どこかの山で会えるといいですね。」
そんな約束をした。何となく、本当に、また会える気がしている。
乗越から一ノ沢登山口へ向かって下山した。充実した日々だった。出会った人々に、送り出してくれた家族に、そして山に感謝。
素敵な夏休みを、ありがとう。
<今日のルート>
大天荘5:22~東天井岳6:32~常念乗越(荷物デポ)7:35/7:50~常念岳9:10/9:30~常念乗越10:30/11:07~最終水場11:50~大滝ベンチ13:30/13:38~一ノ沢登山口~駐車場14:45