前日の雨で木道は濡れていた。積み重なった石の登山道を、逸る気持ちを抑え慎重に進んでいく。
星型のかわいらしい花をつけたキンコウカが、出迎えてくれる。
しかし、今日ばかりは登山計画の時間をしっかり守らなければ、足の遅い私は頂上に辿り着けなくなってしまう。花の撮影は帰路でと言い聞かせ、先を急いだ。
友人と「今度、行こう」と約束をした平標山の向こう側に雲海が見え、しばらくすると山の稜線を超え、滝雲になった。
神楽ヶ峰をすぎ、緩やかな稜線をしばらく歩けば、見事な花畑だ。
白い花火のように咲くハクサンボウフウが斜面一面に広がっている。
登山道脇には、紫、黄色、薄紅色の花々が競い合うように咲いていた。
「可憐な振舞い」という花言葉がよく似合うヒメシャジン。
夏の緑に映えるシモツケの花。
散り始めたウツボグサの赤紫色の花穂も綺麗な色だ。この花穂が弓の矢を入れる靭(うつぼ)に似ていることから名付けられたという。
花畑を過ぎると、雲尾坂の急坂が待っている。
これを登り切れば…山頂の景色を想像し、1歩ずつ上がっていく。
坂を登りきると、石と泥の連続だったそれまでが嘘だったかのような景色が飛び込んできた。
水不足の影響なのか、湿原は既に少し秋の色に染まり始めている。
せっかく時間をかけて山頂に行くのだ。登山計画でも、頂上でゆっくり過ごす時間を確保しておいた。
涼しい風が吹く中で食べるトマトリゾットが美味しい。食後は雷清水で汲んだ湧き水でコーヒーを淹れる。幸せな時間。
残りの時間で、湿原の散策に向かう。池塘が多く点在するところまで赤湯へ下る道を進む。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。今度は青空の映り込む池塘が見たいと思いながら下山を始めた。
登りでは気がつかなかったウメバチソウを発見。花もかわいいが蕾もかわいい。
夫には「しょぼい虫」と言われるが、どんな虫がいても、できるだけありのまま撮影しようと私は思う。その姿こそが真の花の姿に思えるからだ。
帰路まで我慢していた花畑の撮影を始めて間もなく、雨雲が広がりポツポツと降り始めた。慌てて雨支度をして、下山再開。
結局、雨は降りださなかった。
登ってきた人に花の名前を尋ねられ、その時は答えられなかったが、珍しい薄紅色のウツボグサではないかと後でわかり嬉しかった。
他の花々に埋もれながら懸命に咲くタチコゴメグサ。
くるんっと丸まった様子がかわいらしいクルマユリ。
空が明るくなってきた。
下ノ芝を過ぎた頃には、青空が広がりだした。
「またおいで」そう苗場山に誘われているようだ。
和田小屋から駐車場まで下る車道脇にもオカトラノオなどの山野草が咲きあふれ、さわやかな高原を彩っている。
<今日のルート>
前橋3:30~渋川I.C~湯沢I.C~第2リフト町営駐車場5:10/5:20~和田小屋5:42~下ノ芝6:53~中ノ芝7:35/7:43~上の芝7:57~分岐8:05~神楽ヶ峰8:20~雷清水8:45~苗場山山頂9:35/11:05~雷清水12:15~神楽ヶ峰12:37~分岐12:47~中ノ芝13:03/13:08~下ノ芝13:45~和田小屋14:43~駐車場15:00/15:30頃~国道17号~前橋17:30頃
※湯沢I.C降りてすぐのセブンイレブンが最後のコンビニ。